
戸建て住宅からアパートやマンションが主流になるに従い、神棚をお祭りする家庭や会社は減ってしまいました。ですが近年の神社ブームやスピルチュアルブームにともない、神棚をまつる家庭が再び増えています。
しかし歴史や習慣が途切れていたために、神棚における正しい作法がわからない方も多いようで、「神様へのお供え(食事)は後で食べていいの?」といった質問もよく見かけます。
結論から言いますと、神様へのお供えはぜひ食べるべきです!
その裏には、神道にまつわる奥深い理由が隠されています。ただ作法を覚えるだけでなくその理由も知ることで、神様からより豊かな恵みを授かることができるでしょう。
今回は神棚のまつり方やお供えの作法と、その理由をわかりやすく紹介します。
目次
- 神棚とは?家庭で神棚をお祭りするメリット
- 神棚と神様へのお供えの基本作法
- 神様へのお供えの仕方:神饌(お供え)のお下がりは必ず食べよう
- 直会とは?神様へのお供えを食べた方がいい理由
- 神様のお下がり?鏡餅とお年玉の由来
神棚とは?家庭で神棚をお祭りするメリット
神棚といえば昔ながらの戸建て住宅や事務所には必ずあるものでしたが、スペースや構造上、神棚をまつることが難しいアパートやマンションが増えるに従い、その数は減少。
しかし現代社会の事情やニーズに応えた、省スペースでモダンなデザインの神棚が近年続々と誕生し、神棚をお祭りする方が今再び増えています。
スピルチュアルブームやパワースポットブームで神社の人気も高まっていますが、神棚とは簡単に言うと、「家庭版のミニチュア神社」です。神棚は神様の「依り代(よりしろ)=お住まい」になりますから、神棚にお祈りすることで、神社での参拝と同様のご神徳(ご利益)をいただくことができます。
家庭内に神棚があることで、常日頃から家族や生活を神様に見守っていただくと同時に、神様へのお祈りや感謝もできるのですね。
神棚と神様へのお供えの基本作法
神棚の基本原則は
大人の目線より高い、清浄な場所に、東か南向きにまつる
神社の形を模した「宮方(みやがた)」に、注連縄をしつらえる
「お神札(お札)」を納める
みずみずしい「榊(さかき)」と「神饌(しんせん)=神様の食事」を毎日お供えする
二拝二拍手一拝の参拝を毎日行う
の5点です。
ですがスペース的な問題や日々の忙しさから、立派な神棚に毎日参拝するのが難しいという方も多いでしょう。
その場合には、きれいに整えた壁やタンスの上にお神札をおまつりし、神饌(お供え)も毎月1日と15日などの節目や、週に1度などといったルールを決めて供えるかたちで問題ありません。
大事なのは形式ではなく、神様を畏れ敬い、感謝する「心」です。各家庭における無理のないかたちで神様をお祭りし、参拝を行いましょう。
神棚の基本作法についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
神様へのお供えの仕方:神饌(お供え)のお下がりは必ず食べよう

“お供え詳細” by gintacat is licensed under CC BY 2.0
(Photo by.gintacat is licensed under CC BY 2.0)
神様にお供えする食事を「神饌(しんせん)」といいます。基本は「米・塩・水」の3品ですが、酒(日本酒)を加えた4品を供える場合もあります。
正月などの節目や家族にとって大事な日には、季節の初物や旬の食材を供え、またいただき物の珍しい食物なども、一度神様にお供えしてからいただくのがよいでしょう。
神棚におけるお供えの並べ方としては、米を中央奥に、その手前に左から水、酒、塩の順にお供えするか、左から水、酒、米、塩と横一列に供えるのが一般的。場所がない場合は二列にするなど、無理のないかたちで大丈夫です。
神様へお供えした後の神饌は必ず食べましょう。神社でも、神様へのお供えは神職や氏子の方が後で必ずいただき、これが「お下がり」の語源となっています。
この「お下がり」、ただ捨てるのがもったいないという理由ではありません。実は神道において非常に大事な作法の1つなのです。
直会とは?神様へのお供えを食べた方がいい理由
神社で神事や祭事をする際には、神饌を神前にお供えするのですが、お祭りが終わった後には必ず、神職や氏子などの参加者で宴を催して神饌のお下がりを食べます。この宴会は「直会(なおらい)」と呼ばれ、お祭りを終えるための大事な儀式の1つです。
神道には、神様と人が同じものを食べることで神に近づこう(神と融合しよう)と願う「神人共食(しんじんきょうしょく)」という考え方があります。神様がいただいた食事には神の力が宿っており、それをいただくことで神様の恩恵を授かることができるのです。
ですから各家庭でお供えをした後にも、神様の力が宿ったお下がりをいただくことで、恵みやご神徳を授かることができます。いただき物を神前に供えるのは、神様への感謝を示すだけでなく、我々にもメリットがあるのですね。
神様のお下がり?鏡餅とお年玉の由来
直会や神人共食といった神道の作法から生まれた年中行事が、「鏡餅」と「お年玉」です。
鏡餅は新年に恵みをもたらす「歳神様(としがみさま)」の依り代であると同時に、お供え物です。ですから正月が終わってお供えを終えた鏡餅は「鏡開き」を行い、必ず皆で食べます。
お年玉といえば、現在は目上の人が目下の人に金銭を与えるのが一般的ですが、その本来の意味は「分け与えられた歳神様の魂」のこと。鏡開きをして砕いた餅を与えたことがお年玉の由来の1つとされています。
「数え年」で歳を取っていた昔の日本では、歳神様の魂を食べることで「歳」を取っていました。歳神様のパワーが宿った餅を食べることで、その恵みを授かろうとしたのですね。
神棚というと、由緒正しい家であったり、作法が厳粛でハードルが高いという印象をもっている方も多いでしょう。ですが大事なのは形式ではなく、その理由を理解した上で、神様を畏れ敬う「心」をもって日々感謝することです。
そうすれば皆様のご家庭に合わせた神棚のまつり方でも、神様の恵みをいただき、家族を見守ってもらうことができるでしょう。
【参考文献】
新谷尚紀・波平恵美子・湯川洋司(編)、『暮らしの中の民俗学〈2〉一年』(2003年 吉川弘文館)
神社本庁(監修)、『神社検定 公式テキスト1 神社のいろは』(2012年 扶桑社
著者名)
(夏藤涼太/ライター)

Webライター/シナリオライター。
「日々にロマンを。毎日を豊かに。日常を非日常に」をテーマに、日本文化や歴史に神社仏閣、オカルトネタにサブカルチャー、シナリオライティングまで広く深く執筆しています。学生時代の専攻は民俗学。
◇twitter:@hondobo
◇blog:http://donotlife.blog.jp